ホーム > ホームセキュリティ > 月水金フラッシュニュース > 月水金フラッシュニュース・バックナンバー > ゴミ箱から見えてくるセキュリティのコンセプト
昨年末から日本では、APEC(Asia Pacific Economic Cooperationアジア太平洋経済協力)の各種会議が行われており、各地で警備が強化されています。今週末には、最大の山場である参加各国の首脳会議が横浜で行われ、フィナーレを飾ることになっています。米国や中国を始めとする参加各国の首脳が一同に集まることから、会場周辺の警備はもちろんのこと、特にテロ対策では、全国で交通機関や多くの人が集まる施設など、最大級の警戒態勢が敷かれます。
日本は、不特定多数の市民をターゲットにして化学兵器であるサリンが使われたという、世界に類を見ない無差別テロが行われた国です。この苦い経験もあり、テロへの警戒態勢が敷かれると、爆弾などを隠すことのできる建物スペースなどが徹底的にチェックされ、封印されたり、撤去されたりします。2001年の米国における同時多発テロが発生した後には、公共空間から多くのゴミ箱が撤去され、不便を感じられた方も多いのではないでしょうか。
ゴミ箱の撤去は、テロを行おうとするものに爆弾などを仕掛けるスペースを与えないという意味で、有効な対策です。しかしそれでは不便だということで、右図のような、中に捨てられたゴミが見えるゴミ箱が作られ、駅などの公共空間で採用されています。爆弾などが仕掛けられても、それが分かるようにすることで、テロ実行犯を牽制しようとする対策です。本コラムで言うところの「事態そのものを起きにくくする対策」の一つと言えます。
一方、米国ニューヨーク市の地下鉄(NYC)の駅に設置されているゴミ箱は、日本のものとは基本的考え方が違います。右図は、ごく最近NYCの地下鉄で撮ったゴミ箱の写真です。外側に厚い鉄板で作られた円筒状のシールドが設けられており、爆発が起こったとしても爆風などを周りに飛び散らせない構造となっています。ゴミ箱への爆発物の設置を防ぐことが事実上できないものとして、もし爆発が起きたとしても、周りに及ぼす影響を少なくしようとするアプローチです。これは、本コラムで言う「被害の拡大を防ぎ、最悪の状況に至らないようにする対策」の一つと言えます。
セキュリティを「日常の活動や運営のすべてが、どのようなものからも阻害されることなく、平穏で無事に行えるようにすること」と考えると、爆発物テロに対する対策としては、NYCの方がより有効であると感じます。一方、サリンなどの化学物質テロへの対応を考えた場合は、NYCの対策は無力で、日本の対策の方に軍配が上がるでしょう。
日本とNYCではテロ対策の基本コンセプトが違います。今回は、公共空間のテロ対策を例に説明しましたが、実際のセキュリティの実現には「日常の活動や運営のすべてが、どのようなものからも阻害されることなく、平穏で無事に行えるようにすること」という、その根本的な考え方を頭に置く必要があります。そのうえで、場所や状況、想定される脅威などの条件を考慮しながら、ケースバイケースで最適な手法を選択していくのが効果的であると言えます。個人の生活でセキュリティを考える場合においても、これは全く同じなのです。
(参考)
・安心豆知識「信頼される安心を、社会へ。」(2008/11/4)
セコムIS研究所
セキュリティコンサルティンググループ
甘利康文
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